開講時限:S1S2(4月~7月)、土曜日・4限(14:55~16:40)
担当講師:安原義仁、木戸裕、大塚豊、福留東土
単位数:2単位
<授業の目的>
本授業は、比較および歴史の視点から大学を考察する視野を醸成し、受講生が現代日本の大学をみる視点を相対化することができるようになることを目的とする。授業では、はじめに、比較教育学研究に関する主要な理論を習得する。続いて、世界の主要各国・地域の大学に関する基礎的な理解を深める。イギリス、ドイツ、中国の大学を主たる考察対象としながら、大学の起源や理念、発展過程について学び、現代の大学の成り立ちについての理解を深める。
<授業の構成>
第1回(4/11)「比較・歴史研究の射程と方法」(福留東土)
本授業の導入として、大学の比較・歴史研究とは何かについて論じる。比較・歴史の観点からなる高等教育研究の考え方や方法論について論じ、日本における比較・歴史研究の現状について論じる。比較・歴史研究の発展過程、対象地域、研究者集団、方法論・アプローチなどについて論じ、比較・歴史研究の現状と課題について理解する。
課題文献
・福留東土「比較高等教育研究の回顧と展望」『大学論集』第46集、広島大学高等教育研究開発センター、2014年、139-169頁。
第2回(4/18)「大学の組織-構造理論」「中世ヨーロッパの大学」
大学の組織やその変動は国際比較の観点からどのように捉えることができるのか。大学の国際比較を行う際にひとつの軸となる組織-構造理論について解説する。また、第3回以降の授業の導入として、中世ヨーロッパにおける大学の成立について解説する。
課題文献
・山崎博敏「高等教育システムの組織社会学的分析視角―B.クラークを中心に―」『大学論集』第14集、広島大学大学教育研究センター、1985年、111-132頁。
・福留東土「文献解題:バートン・R・クラーク『高等教育システム』」(授業用資料)。
・横尾壮英「ヨーロッパ型大学の誕生」『大学の誕生と変貌―ヨーロッパ大学史断章』東信堂、1999年、第1章。
第3回(4/25)「古代文明における『学問の府』の起源」(安原義仁)
「大学」の起源は中世ヨーロッパにあるとされるが、本授業では中世ヨーロッパに大学が誕生する以前の、古代の各文明圏における「学問の府」の起源について比較文明史的観点から概観する。そして、そのことを通じて「ヨーロッパ型大学」を相対化しつつ、学問や大学のあり方について考察する。
課題文献
・伊東俊太郎『12世紀ルネサンス』講談社学術文庫、2006年。このうち第1, 2, 4, 5講。
第4回(5/2)「19世紀イギリスの大学改革」(安原義仁)
現代イギリスの大学・高等教育のシステムとエートスは、基本的には19世紀大学改革によって形成された。この長期間にわたる大学改革において何が課題とされたのか。どのような論争や経緯を経て、大学はどのように変貌していったのか。この授業では大学と社会との関係に留意しつつ、様々な観点から大学改革の歴史について考察する。
課題文献
・M.サンダーソン(安原義仁訳)『イギリスの大学改革 1809-1914』玉川大学出版部、2003年。このうちの序章。
第5回(5/9)「イギリスの教養教育―理念とかたち―」(安原義仁)
イギリスにおいて教養教育(liberal education)はどのようなものとして考えられているのか。その理念の変遷を辿るとともに、それが大学教育にどのように具現化されていったのかについて、学位コース(学士課程プログラム)に即しつつ考察する。
課題文献
・安原義仁「イギリスの大学・高等教育における学士学位の構造と内容―近代オックスフォードの古典学優等学士学位を中心に―」『高等教育研究』第8集、日本高等教育学会、2005年。
第6回(5/23)「ベルリン大学の創設とフンボルト理念の展開」(木戸裕)
ベルリン大学の創設者フンボルトの大学理念を中心に、シェリング、シュライエルマッハー、フィヒテなど哲学者の大学論に言及するとともに、フンボルト理念はその後どのように変容したのかを探る。
課題文献
・シュライエルマッヘル著,梅根悟・梅根栄一訳『国家権力と教育:大学論・教育学講義序説』(世界教育学選集17),明治図書出版,1969.
・フィヒテ,シュテフェンス,フンボルト著,梅根悟訳『大学の理念と構想』(世界教育学選集53),明治図書出版,1970.
・W.v.フンボルト著,C.メンツェ編,K.ルーメル他訳『人間形成と言語』以文社,1989.このうち、「ベルリンにおける高等学問施設の内的ならびに外的組織の理念」。
・シェリング著,勝田守一訳『学問論』岩波文庫,1957.このうち巻末の解説。
第7回(5/30)「東西分裂から再統一に至るドイツ大学の変遷」(木戸裕)
ナチズムの時代を経て、戦後東西に分裂し異なる政治体制の下で再建の道を歩んだ両ドイツの大学改革の足跡をたどるとともに、1990年のドイツ統一によるドイツ大学の再編の実態について述べる。
課題文献
・マックス・プランク教育研究所研究者グループ著,天野正治・木戸裕・長島啓記監訳『ドイツの教育のすべて』東信堂,2006.
・クリストフ・フュール著,天野正治・木戸裕・長島啓記訳『ドイツの学校と大学』玉川大学出版部,1996.
上記いずれかのうち、高等教育に関わる章とドイツ統一に関わる章。
第8回(6/6)「ボローニャ・プロセスとドイツ大学改革の現在」(木戸裕)
47か国が参加し、ヨーロッパレベルで取り組まれている高等教育改革であるボローニャ・プロセスについて紹介するとともに、そのなかで現在ドイツではどのような大学改革が進行しているのかを見ていく。
課題文献
・木戸裕「ボローニャ・プロセスと高等教育の質保証-ドイツの大学をめぐる状況を中心に-」広島大学高等教育研究開発センター『大学教育質保証の国際比較』2011年4月,pp.25-65.
・木戸裕「ボローニャ・プロセスとドイツの大学改革」日本ドイツ学会『ドイツ研究』第45号,2011年5月,pp.113-125.
・木戸裕「ヨーロッパ統合をめざした高等教育の国際的連携―ボローニャ・プロセスを中心として―」日本比較教育学会『比較教育学研究』第48号,2014年1月,pp.116-130.
上記3点のうちいずれか。
第9回(6/13)「大学の発展に関する理論―段階論・モデル論・従属論」(福留東土)
各国の大学システムはいかなる要因やプロセスによって成立し、拡大・発展していくのか。それは当然、各国の社会的・政治的・経済的要因に依存しつつ決まっていくが、国ごとの文脈を超えて共通の現象を見出すことも可能である。さらに、そこには、国同士の影響関係と同時に、地域的特性も見出しうる。本講義では、大学の成立・発展について論じられてきた主要な諸理論を取り上げて検討する。
課題文献
・天野郁夫「日本高等教育システムの構造変動―トロウ理論による比較高等教育論的考察」『教育学研究』第76巻、第2号、2009年、172-184頁。
・P.G.アルトバック「『中心-周辺』論からみた大学」(馬越徹監訳)『比較高等教育論―「知」の世界システムと大学』玉川大学出版部、1994年、第4章。
・中山茂「日本の高等教育に対する西洋のインパクト―自立と選択―」P.アルトバック・V.セルバラトナム(馬越徹・大塚豊監訳)『アジアの大学―従属から自立へ―』玉川大学出版部、1993年、第3章。
第10回(6/20)「中国大学の起源―近代以前の大学の起源と近代大学との連続性」(大塚豊)
①漢代に設置された太学をはじめ、近代以前の中国に存在した国士監、国士学、辟雍、書院など種々の古代大学における教育の展開状況、②それらの古代大学と科挙制度との関係、③近代化の手段として、日本の影響も受けた近代大学の誕生経緯、および古代大学との連続性について検討する。
課題文献
・安原義仁・大塚 豊・羽田貴史編『大学と社会』(放送大学教材)、放送大学教育振興会、2008年の第3章。
・教員作成の資料を別途配付
6/27は日本高等教育学会大会のため休講
第11回(7/4)「植民地化と中国の大学―植民地化と戦火の下の中国大学」(大塚豊)
欧米列強ならびに日本による植民地化圧力の下、さらには日中戦争の戦火の中で、大学教育はどのように維持されたのか。満州国、台湾での大学制度・実態に触れるとともに、戦火の下で大学教育の維持のためにとられた経営的工夫について検討する。
課題文献
・大塚豊「戦時下中国における欧米系大学」阿部洋編『日中教育文化交流と摩擦』第一書房、昭和58年、376~402頁。
第12回(7/11)「文化大革命、改革・開放と大学―現代中国大学の原型形成とその後の変容」(大塚豊)
中華人民共和国建国初期における大学教育制度の整備過程とその後の同国の歴史の中できわめて重大な意味をもつ文化大革命時期ならびに現在の改革・開放時期に中国社会に起こった種々の状況と大学の対応について検討する。
課題文献
・大塚豊『中国大学入試研究-変貌する国家の人材選抜』東信堂、2007年の特に序章「政治と経済のはざまで揺れる教育」(3~27頁)
試験(7/18)
担当講師ごとに1題ずつ、試験問題を出題する。通常の授業時間内に教室で解答すること。資料の持ち込みは不可。
<成績評価>
授業への参加状況、および7月18日に行う最終試験の結果によって行う。授業には毎回必ず出席し、積極的に発言すること。