授業・履修情報

2016年度シラバス

比較大学論

  2016年度後期(A1A2) 比較大学論

担当教員:福留東土
開講時限:土曜5限
単位数:2単位
 
<授業の目的>
この授業では、大学を比較と歴史の視点から探究することにより、大学に関する複眼的かつ幅広い視野を獲得することを目標とする。主にアメリカの大学を対象に講義を行うが、アメリカの大学に関する知識を習得すること自体が目的ではなく、比較史的考察を通して、各人が「大学とは何か」に関する思考を深めることを重視する。
 
<授業の趣旨と狙い>
大学とは本来、普遍的な知の拠点として、国や地域の枠組みにとらわれずに世界的に知的活動を展開させる性格を潜在的に有している。一方、近代社会の成立以降、大学が本質的な機能として担ってきた高等教育は各国の教育制度において人材養成・配分機能の重要な一部分を担い、それゆえに、教育内容の特性、中等教育制度との関係、労働市場との関係などの点において、その構造と機能は国ごとの独自性を持っている。また、研究活動は、それ自体は普遍性を志向する活動であるが、その具体的態様は、研究資金と研究の場の提供を通じて社会における諸勢力(とりわけ政府)との関係に規定されており、その実態は国によって大きく異なっている。すなわち、大学は本来的な性向として普遍性を追求しつつも、その教育機能をとっても研究機能をとっても、あるいは社会貢献機能をとっても、現実的には各国の政治・経済・文化等、広い意味での社会の諸条件の中でそれら機能を果たしている社会的組織なのである。またそこでは、それら諸条件の時代的変化の中で歴史的に形成されてきた大学の外的・内的構造が紐帯として現実の大学のあり方を大きく規定してもいる。
 大学・高等教育について包括的な理解を持つ上では、普遍的・一般的な大学のあり方を各国の特殊性を捨象して捉えることが必要である。しかし、大学・高等教育は歴史的な社会変動や各国独自の社会的諸条件から独立して真空の中に存在しているわけではない。それゆえ、大学・高等教育をその実態を伴ったかたちで把握する上では、歴史的にみた大学・高等教育の変容、各国の諸条件の違いを反映した大学・高等教育の特殊性を視野に入れなければならない。さらには、このことと関係しつつ、大学という存在の定義自体が国によって異なり、またとりわけ現代では一国の内部でも多様化しているという実態を踏まえるとき、そもそも大学をどう定義付けうるのかという問題自体、一義的な解答を与えられる問いではない。
 本講義では、アメリカの大学を対象に検討を行うが、それは、アメリカの大学が戦後日本の大学改革のモデルとなり、あるいは現在世界で大学改革のモデルと位置付けられていることが直接的な理由ではない。アメリカの大学システムは高度な多様性を備えており、その多様性の検討を通して、大学・高等教育のあり方を多角的に検討し、我々の持つ大学像を拡張することが主な目的となる。さらには、教育や学術、社会との連携など、多方面でこれまで様々な取組が行われてきた歴史を振り返る中で、現代の問題にも通じる、大学・高等教育の本質的な使命や課題にアプローチする視座を、本授業を通して培ってもらいたい。
 
<授業スケジュールとテーマ>
 
1
10/1
導入講義―比較・歴史研究の射程と方法(1)
2
10/8
・比較・歴史研究の射程と方法(2)
・比較分析の事例研究
 
(10/15)
(ホームカミングデーのため休講)
3
10/22
アメリカの大学システム
 
(10/29)
(研究セミナー開催のため休講)
4
11/5
アメリカの多様な大学
5
11/12
ヨーロッパの大学と植民地カレッジ
6
11/19
独立後の大学とダートマスカレッジ・ケース
(※日程上は補講日だが通常授業を行う)
7
11/26
カレッジの教育―「イェール・レポート」の分析
8
12/3
実務的教育と大学―ランドグラント・カレッジの成立と展開
9
12/10
研究大学と大学院教育
10
12/17
大学のシステム化:拡大と多様化―19世紀末から20世紀前半の大学
11
12/24
比較大学研究の理論分析―組織-構造理論・発展段階論・モデル論・従属論
12
1/7
20世紀前半の大学とリベラル・エデュケーション
 
(1/14)
(センター試験のため休講)
13
1/21
大衆化・民主化・統制―戦後の大学
                       
<授業の進め方>
授業の課題は以下の4つとする。

1.         事前課題:当日の授業に先立ち、課題論文を読み、and/or事前講義を視聴してくること。授業の補足講義を行う場合はそれも含む。授業では、グループディスカッションなど討論形式を多く取り入れるので、必ず事前課題を行ってくること。事前講義と資料の配信にはYoutubeとDropboxを用いる。第2回、第3回については指定された論文を読んでくること。

2.         小レポート:第2回~第13回のいずれか2、以下のどちらかの内容を、授業次週の木曜までにA4・2枚程度の小レポートにまとめ、メール添付で送付すること。レポートの内容は授業中に議論の素材として用いる場合がある。

     事前講義を聞いて考えたことや疑問点

     授業の内容(補足講義がある場合はその内容を含む)についてさらに論じたいことや授業での疑問点

3.         期末レポートと中間発表:以下のいずれかの方法により、期末レポートを作成すること。また、授業中にその内容に関する中間発表を行うこと。

     海外の個別大学をひとつ取り上げ、その歴史について論じる。テーマは自由(創設時の歴史、何らかの歴史的画期、通史など)。対象大学はアメリカに限らない。

     特定のテーマを立てて、比較または歴史の観点からそのテーマについて論じる。

     授業の流れと関連する主要大学の創設期の歴史について論じる。この場合、関連するテーマを扱う授業の際に発表を行うこと。候補となる大学は以下。

5回:植民地カレッジ・・・ハーバード大学、イェール大学、ダートマス・カレッジ、プリンストン大学、ペンシルバニア大学、コロンビア大学
8回:主要なランドグラント・カレッジ・・・ペンシルバニア州立大学、ミシガン州立大学、メリーランド大学、コーネル大学、ウィスコンシン大学、ミネソタ大学、イリノイ大学、インディアナ大学、カリフォルニア大学、他
9回:新設の研究大学・・・ジョンズ・ホプキンズ大学、スタンフォード大学、クラーク大学、シカゴ大学、またはそれ以前に構想された研究大学・・・バージニア大学、ミシガン大学
レポートの中間発表を、第5回~第13回の授業中に設ける(質疑応答含め一人30分程度)。レポートの対象大学・テーマと希望する発表日を11/3(木)までにメールで提出すること(形式自由)。対象大学・テーマについて調整を行うことがある。必要に応じて事前に相談すること。

4.         リフレクション・シート:授業では毎回リフレクション・シートを配布する。その日の授業を通して関心を持った点、疑問点、コメントなどを自由に書いて、授業の最後にTAまで提出すること。優れたコメント、重要な質問は次回授業で取り上げることがある。

 各レポートはできる限りPDFして、TAまで送付すること
 
<授業レポートについての考え方>
投稿論文などの学術論文を書く場合、定められた分量の中で目的と対象を明確に設定し、論理の通った実証的分析によって一定の結論を導き出す必要がある。
これに対して、授業のレポートでは、限られた時間、資料の中で取り組むこともあり、完成されたものというよりも、自分なりに調べ、考えたプロセスを書くことが中心となる。明確な結論を導き出す必要は必ずしもない。調べる中で考えたこと、暫定的な見解、疑問に思った点、今後調べてみたいことなど、ある程度自由度を持って書いて構わない。
ただし、自分がレポートを書く意図や問題関心を意識して書くこと。また、考えるプロセスにおける論理的思考が重要である。テーマに対する明確な結論はなくてもよいが、それについて考えたプロセスを自分なりの言葉で表現することが重要。すなわち、資料と時間が限られていても、可能な範囲で思考を深めようと心掛けることが大事である。
また、時間を置いて、自分の書いたレポートを読み返すと、新鮮な眼で過去の自分を振り返ることができる。そうしたことを含めて、自分の思考を深める機会としてもらいたい。
 
<各回のテーマと内容>
 
1回:10月1日  導入講義―比較・歴史研究の射程と方法(1)
  • 授業の趣旨・内容の説明
  • 大学「経営・政策」とは何か
  • 比較研究とは?
  • 大学院における研究について
2回:10月8日  比較・歴史研究の射程と方法(2) 比較分析の事例研究
  • 大学の比較・歴史研究とは何か(続)
  • 比較研究への視野の醸成を目的に事例研究を行う。
  • 高等教育の具体的課題に関する論文を取り上げて、「比較研究とは何か」について考察を深める
事前課題
  • 福留東土「比較高等教育研究の回顧と展望」『大学論集』第46集、広島大学高等教育研究開発センター、2014年9月、139-169頁。
  •  福留東土「専門教育の視点からみた学士課程教育の構築」『大学論集』第41集、広島大学高等教育研究開発センター、2010年3月、111-127頁。
  •  福留東土「大学院教育と研究者養成-日米比較の視点から-」『名古屋高等教育研究』第12号、名古屋大学高等教育研究センター、2012年3月、237-256頁。
・・・上記2点のうちから関心ある論文一つを選び、批判的に読んだ上で、自分が論文で論じられている課題についてどう考えるかを考えてくること。質問を含めてもよい。授業では、各自のレポートを元にグループディスカッションを行う。
 
1015日 ホームカミングデーのため休講
 
3回:10月22日 アメリカの大学システム
  • アメリカの大学システムを特徴付けるものは何か?
  • アメリカの大学システムの概要:大学を取り巻く支援・管理・規制の構造
  • 大学システムの重層性と複雑性
 事前課題
  • William G. Tierney, "Globalization, International Rankings, and the American Model: A Reassessment," Higher Education Forum Vol.6, (Hiroshima: Research Institute for Higher Education, Hiroshima University, 2009), 1-17.
  • ロバート・バーンバウム「ガバナンスとマネジメント―アメリカの経験と日本の高等教育への示唆」広島大学高等教育研究開発センター編『大学運営の構造改革―第31回(2003年度)研究員集会の記録―』高等教育研究叢書80、2003年、26-45頁。(Robert Birnbaum, "Governance and Management: U.S. Experiences and Implications for Japan's Higher Education.")
・・・両論文を事前に読み、内容を理解してくること。
 

10月29日:研究セミナー開催

授業は休講とするが、受講生はできるだけ当日開催される研究セミナー(17-19時)に出席すること。
大学経営・政策研究センター2016年度第4回公開研究会
「米国の大学における学科長―その位置付けと役割―」
ジェラルド・レテンダ教授(ペンシルバニア州立大学教授・前教育政策学科長)
 

113日(木) 中間発表・期末レポートテーマ提出期限

TAまでメールで送付すること。
 
4回:11月5日アメリカの多様な大学
  • アメリカ大学の機関類型―多様性
  • 高等教育機関の管理運営の構造
事前課題
カーネギー大学分類(現在はインディアナ大学ブルーミントン校中等後教育研究センターが管理)のウェブサイトを見て、分類データを読むことで、アメリカの大学の多様性の特質について、どのような事実が読み取れるかを考えてくること。詳しくは授業中に指示する。  http://carnegieclassifications.iu.edu/
 
5回:11月12 ヨーロッパの大学とアメリカの植民地カレッジ
  • アメリカ大学の起源となった中世・近世のヨーロッパの大学の発展の概要、およびヨーロッパで形成された大学概念について理解する。
  • アメリカはいかにしてヨーロッパの大学を新大陸に移入させたのか?またそれはどこまで可能であったのか?
  • アメリカにとってのヨーロッパの知的・文化的遺産とは何か?
受講生による発表12
 
事前課題
  • ロジャー・ガイガー「アメリカ高等教育史」Generation 1-2
 
 6回:1119日 独立後の大学とダートマスカレッジ・ケース
  • 植民地カレッジの目的、管理形態、植民地政府との関係
  • 大学を所有・管理するのは誰か?
  • 「公立」「私立」の概念形成
受講生による発表34
 
事前課題
  • 福留東土「公立/私立の区分の成立―ダートマスカレッジ・ケース」(講義資料)
  • ロジャー・ガイガー「アメリカ高等教育史」Generation 3-4
 
7回:1126日 カレッジの教育―「イェール・レポート」の分析
  • カレッジ時代を特徴付ける古典教育の特質
  • 古典教育の意義を主張した「イェール・レポート」で何が論じられたのか?
受講生による発表56
 
事前課題
  • 立川明訳 (2001・2004). 「イェイル・レポート」第一部・第二部、国際基督教大学教育研究所。
  • ロジャー・ガイガー「アメリカ高等教育史」Generation 5
8回:123 実務的教育と大学―国有地付与大学(ランドグラント・カレッジ)の成立と展開
  • 農業・工業の発展による社会変化と大学教育への需要の変化
  • 連邦政府・州政府による財政的支援と大学教育の関係
  • ランドグラント・カレッジのタイポロジーと多様性
  • 近代社会の成立と大学への実学の導入過程
受講生による発表78
 
事前課題
  • lロジャー・ガイガー「アメリカ高等教育史」Generation 6
 
9回:1210日 研究大学と大学院教育
  • 研究に基づく新たな大学像の現出―大学にとって研究・研究者養成とは何か?
  • ドイツモデルの影響とジョンズ・ホプキンズ大学
  • シカゴ大学の出現
  • 既存大学へのインパクトとユニバーシティへの変容
受講生による発表910
 
事前課題
  • ロジャー・ガイガー「アメリカ高等教育史」Generation 6
 10回:1217 大学のシステム化:拡大と多様化―19世紀末から20世紀前半の大学
  • 大学の拡大と多様化・階層化の実態とその影響
  • 大学教育の標準化への動き―中等教育との接続、アクレディテーションの出現、財団の影響力
  • 競争と協調―協調の場としての大学団体とそれを通した差別化・階層化
受講生による発表1112
 
事前課題
  • ロジャー・ガイガー「アメリカ高等教育史」Generation 7
 11回:1224日 比較大学研究の理論分析―組織-構造理論・発展段階論・モデル論・従属論
  • 比較大学論の主要な理論を学ぶことによって、ここまで学んできたアメリカの歴史的発展と、この後で取り上げる現代的展開という実態とを相対化し、さらには国際的なレベルで見た際の日米の特質の同定を図る。
  • 大学の国際比較を行う際にひとつの軸となる組織-構造理論について解説する。
  • 各国の大学システムはいかなる要因やプロセスによって成立し、拡大・発展していくのか。大学の成立・発展について論じられてきた主要な諸理論を取り上げて検討する。
受講生による発表1314
 
事前課題
  • 福留東土「文献解題:バートン・R・クラーク『高等教育システム』」(講義資料)。
  • 福留東土「大学の発展に関する理論―段階論・モデル論・従属論―」(講義資料)。
 
 12回:17日 20世紀の大学とリベラル・エデュケーション
  • 一般教育運動とリベラル・エデュケーションの展開
  • 自由選択制度と分散-集中型カリキュラム、一般教育
  • 多文化主義と古典的大学教育
受講生による発表1516
 
事前課題
  • ロジャー・ガイガー「アメリカ高等教育史」Generation 8
 
114日 センター試験のため休講
 
13回:121日 大衆化・民主化・統制―戦後の大学
  • 連邦政府による財政支援の強化と統制
  • 大学教育機会の拡大と大衆化
  • 学生運動と大学の民主化
  • 多文化主義・平等と大学
受講生による発表1718
 
事前課題
  •  ロジャー・ガイガー「アメリカ高等教育史」Generation 9-10
 201726日(月) 期末レポート提出(予定)
 
 <成績評価>
期末レポート(中間発表は評価対象としない)
50%
小レポート
30%
事前課題を含めた授業への貢献、リフレクション・シート
20%
 
<主要参考文献>
・ Bastedo, M. N., Altbach, P. G., & Gumport, P. G. (Eds.). (2016). American Higher Education in the Twenty-first Century: Social, Political and Economic Challenges (Fourth Edition), Baltimore: The Johns Hopkins University Press.
・ Geiger, R. L. (2015). History of American higher education, Princeton: Princeton University Press.
・ 潮木守一『アメリカの大学』講談社学術文庫、1993年。
・ 中山茂『大学とアメリカ社会―日本人の視点から』朝日選書、1994年。
・ フレデリック・ルドルフ『アメリカ大学史』玉川大学出版部、2003年。
他、授業中に適宜提示する。