比較大学論 シラバス
担当教員:福留東土(大学経営・政策コース准教授)
開講時限:A1・A2
<授業の目的>
この授業では、大学を比較と歴史の視点から考察すること
により、大学に関する複眼的かつ幅広い視野を獲得することを目標とする。主にアメリカの大学を対象に講義を行うが、アメリカの大学に関する知識を習得すること自体が目的ではなく、比較史的考察を通して、各人が「大学とは何か」に関する思考を深めることを重視する。
<授業の趣旨と狙い>
大学とは本来、普遍的な知の拠点として、国や地域の枠組みにとらわれずに世界的に知的活動を展開させる性格を潜在的に有している。一方、近代社会の成立以降、大学が本質的な機能として担ってきた高等教育は各国の教育制度において人材養成・配分機能の重要な一角を担い、ゆえに、教育内容の特性、中等教育制度との関係、労働市場との関係などの点において、その構造と機能は国ごとの独自性を持っている。また、大学の活動のもうひとつの主軸である研究活動は、それ自体は普遍性を志向する活動であるが、その具体的態様は、研究資金と研究の場の提供を通じて社会における諸勢力(とりわけ政府)との関係に規定されており、その実態は国によって大きく異なっている。すなわち、大学は本来的な性向として普遍性を追求しつつも、その教育機能をとっても研究機能をとっても、あるいは社会貢献機能をとっても、現実的には各国の政治・経済・文化等、広い意味での社会の諸条件の中でそれら機能を果たしている社会的組織なのである。またそこでは、それら諸条件の時代的変化の中で歴史的に形成されてきた大学の外的・内的構造が紐帯として現実の大学のあり方を大きく規定してもいる。
大学・高等教育について包括的な理解を持つ上では、普遍的・一般的な大学のあり方を各国の特殊性を捨象して捉えることが必要である。しかし、大学・高等教育は歴史的な社会変動や各国独自の社会的諸条件から独立して真空の中に存在しているわけではない。それゆえ、大学・高等教育をその実態を伴ったかたちで把握する上では、歴史的にみた大学・高等教育の変容、各国の諸条件の違いを反映した大学・高等教育の特殊性を視野に入れなければならない。さらには、そのことと関係しつつ、大学という存在の定義自体が国によって異なり、またとりわけ現代では一国の内部でも多様化しているという実態を踏まえるとき、そもそも大学をどう定義付けうるのかという問題自体、一義的な解答を与えられる問いではない。
本講義では、アメリカの大学を対象に検討を行うが、それは、アメリカの大学が戦後日本の大学改革のモデルとなり、あるいは現在世界で大学改革のモデルと位置付けられていることが直接の理由ではない。アメリカの大学システムは高度な多様性を備えており、その多様性の検討を通して、大学・高等教育のあり方を多角的に検討し、我々の持つ大学像を拡張することが主な目的となる。さらには、教育や学術、社会との連携など、多方面でこれまで様々な取組が行われてきた歴史を振り返る中で、現代の問題にも通じる、大学・高等教育の本質的な使命や課題にアプローチする視座を、本授業を通して培ってもらいたい。
<授業スケジュールとテーマ>
回 | 日付 | テーマ |
1 | 9/30 | 導入講義―比較・歴史研究の射程と方法(1) |
2 | 10/14 | ・比較・歴史研究の射程と方法(2) ・比較分析の事例研究 |
3 | 10/21 | アメリカの大学システム |
4 | 10/28 | アメリカの多様な大学 |
5 | 11/4 | ヨーロッパの大学と植民地カレッジ |
6 | 11/25 | 独立後の大学とダートマスカレッジ・ケース |
7 | 12/2 | カレッジの教育―「イェール・レポート」の分析 |
8 | 12/9 | 実務的教育と大学―ランドグラント・カレッジの成立と展開 |
9 | 12/16 | 研究大学と大学院教育 |
10 | 12/23 | 大学のシステム化:拡大と多様化―19世紀末から20世紀前半の大学 |
11 | 1/6 | 研究大学モデルに関するケーススタディ |
12 | 1/20 | 20世紀前半の大学とリベラル・エデュケーション |
13 | 1/27 | 大衆化・民主化・統制―戦後の大学 |
<授業の進め方>
授業の課題は以下の3つとする。
1. 事前課題:授業に先立ち、課題論文を読み、事前講義を視聴してくること(前回授業の補足講義を行う場合はそれも含む)。授業では、グループディスカッションなど討論形式を多く取り入れるので、必ず事前課題を行ってくること。
2. 期末レポートと中間発表:以下のいずれかの方法により、期末レポートを作成すること。また、授業中にその内容に関する中間発表を行うこと。
① 海外の大学をひとつ取り上げ、その歴史について論じる。テーマは自由(創設時の歴史、その大学にとっての歴史的画期、通史など)。対象大学はアメリカに限らない。
② 特定のテーマを立てて、比較または歴史の観点から論じる。
③ 授業の流れと関連する主要大学の創設期の歴史について論じる(この場合、関連するテーマを扱う授業の際に発表を行えるよう調整する)。候補となる大学は以下。
第5回:植民地カレッジ・・・ハーバード大学、カレッジ・オブ・ウィリアム・アンド・メアリー、イェール大学、プリンストン大学、コロンビア大学、ペンシルバニア大学、ブラウン大学、ラトガース大学、ダートマス・カレッジ
第8回:ランドグラント・カレッジ・・・ペンシルバニア州立大学、ミシガン州立大学、メリーランド大学、コーネル大学、ウィスコンシン大学、ミネソタ大学、イリノイ大学、インディアナ大学、カリフォルニア大学、他
第9回:新設の研究大学・・・ジョンズ・ホプキンズ大学、スタンフォード大学、クラーク大学、シカゴ大学、またはそれ以前に構想された研究大学・・・バージニア大学、ミシガン大学
レポートの中間発表を、第5回~第13回の授業中に設ける(質疑応答含め一人30分程度)。レポートの対象大学・テーマと希望する発表日を10/26(木)までにメールで提出すること(形式自由)。必要に応じて事前に相談すること。
3. リフレクション・シート:授業では毎回リフレクション・シートを配布する。その日の授業を通して関心を持った点、考えたこと、質問などを自由に書いて、授業の最後にTAに提出するか、翌週月曜までにDropboxに入れること。優れたコメント、重要な質問は次回授業で取り上げる。
<授業レポートについての考え方>
投稿論文などの学術論文を書く場合、定められた分量の中で目的と対象を明確に設定し、論理の通った実証的分析によって一定の結論を導き出す必要がある。
これに対して、授業のレポートでは、限られた時間、資料の中で取り組むこともあり、完成されたものというよりも、自分なりに調べ、考えたプロセスを書くことが中心となる。明確な結論を導き出す必要は必ずしもない。調べる中で考えたこと、暫定的な見解、仮説、疑問に思った点、今後調べてみたいこと、調べる中で新たに関心を持った点など、自由度を持って書いて構わない。
ただし、自分がレポートを書く意図や問題関心を、できるだけ言葉にすることを意識すること。また、考えるプロセスにおける論理的思考が重要である。テーマに対する明確な結論はなくてもよいが、それについて考えたプロセスを自分なりの言葉で表現することが重要。すなわち、資料と時間が限られていても、可能な範囲で思考を深めようと心掛けることが大事である。
また、時間を置いて、自分の書いたレポートを読み返すと、新鮮な眼で過去の自分を振り返ることができる。そうしたことを含めて、自分の思考を深める機会としてもらいたい。
<各回のテーマと内容>
第1回:10月1日 導入講義―比較・歴史研究の射程と方法(1)
・授業の趣旨と進め方について
・ 大学「経営・政策」とは何か?
・比較・歴史研究とは何か?
第2回:10月14日 比較・歴史研究の射程と方法(2)・比較分析の事例研究
・大学の比較・歴史研究とは何か(続)
・ 比較研究への視野の醸成を目的に事例研究を行う。
・ 高等教育の具体的課題に関する論文を取り上げて、「比較研究とは何か」について考察を深める。
事前課題
・福留東土「比較高等教育研究の回顧と展望」『大学論集』第46集、広島大学高等教育研究開発センター、2014年9月、139-169頁。
・福留東土「専門教育の視点からみた学士課程教育の構築」『大学論集』第41集、広島大学高等教育研究開発センター、2010年3月、111-127頁。
・福留東土「大学院教育と研究者養成-日米比較の視点から-」『名古屋高等教育研究』第12号、名古屋大学高等教育研究センター、2012年3月、237-256頁。
・福留東土「アメリカの大学評議会と共同統治―カリフォルニア大学の事例」『大学論集』第44集、広島大学高等教育研究開発センター、2013年3月、51-64頁。
・・・上記3点のうちから関心ある論文を一つ選び、批判的に読んだ上で、自分が論文で論じられている課題についてどう考えるかを予め考えてくること。質問を含めてもよい。授業では、各自のレポートを元にグループディスカッションを行う。
第3回:10月21日アメリカの大学システム
・アメリカの大学システムを特徴付けるものは何か?
・アメリカの大学システムの概要:大学を取り巻く支援・管理・規制の構造
・大学システムの重層性と複雑性
事前課題
・William G. Tierney, "Globalization, International Rankings, and the American Model: A Reassessment," Higher Education Forum Vol.6, (Hiroshima: Research Institute for Higher Education, Hiroshima University, 2009), 1-17.
・ロバート・バーンバウム「ガバナンスとマネジメント―アメリカの経験と日本の高等教育への示唆」広島大学高等教育研究開発センター編『大学運営の構造改革―第31回(2003年度)研究員集会の記録―』高等教育研究叢書80、2003年、26-45頁。(Robert Birnbaum, "Governance and Management: U.S. Experiences and Implications for Japan's Higher Education.")
10/21 ホームカミングデーのイベント
受講生は、可能な範囲で当日開催される修了生トークセッションに出席すること。
修了生トークセッション「大学トップマネジメントの現場から」
13:00〜15:00、法学政治学系総合教育棟2F204教室
10月26日(木) 期末レポートテーマ提出期限
TAまでメールで送付すること。
第4回:10月28日アメリカの多様な大学
・アメリカ大学の機関類型―多様性
・高等教育機関の管理運営の構造
・・・レポート中間発表の日程確定
事前課題
第5回:11月4日 ヨーロッパの大学とアメリカの植民地カレッジ
・アメリカ大学の起源となった中世・近世のヨーロッパの大学の発展の概要、およびヨーロッパで形成された大学概念について理解する。
・アメリカはいかにしてヨーロッパの大学を新大陸に移入させたのか?またそれはどこまで可能であったのか?
・アメリカにとってのヨーロッパの知的・文化的遺産とは何か?
受講生による発表1・2
事前課題
・ロジャー・ガイガー「アメリカ高等教育史」Generation 1-2
第6回:11月25日 独立後の大学とダートマスカレッジ・ケース
・植民地カレッジの目的、管理形態、植民地政府との関係
・大学を所有・管理するのは誰か?
・「公立」「私立」の概念形成
受講生による発表3・4
事前課題
・ 福留東土「公立/私立の区分の成立―ダートマスカレッジ・ケース」(講義資料)
・ロジャー・ガイガー「アメリカ高等教育史」Generation 3-4
第7回:12月2日カレッジの教育―「イェール・レポート」の分析
・カレッジ時代を特徴付ける古典教育の特質とは何か?
・ 古典教育の意義を主張した「イェール・レポート」で何が論じられたのか?
受講生による発表5・6
事前課題
・ 立川明訳 (2001・2004). 「イェイル・レポート」第一部・第二部、国際基督教大学教育研究所。
・ロジャー・ガイガー「アメリカ高等教育史」Generation 5
第8回:12月9日 実務的教育と大学―ランドグラント・カレッジの成立と展開
・農業・工業の発展による社会変化と大学教育への需要の変化
・ 連邦政府・州政府による財政的支援と大学教育の関係
・ ランドグラント・カレッジのタイポロジーと多様性
・近代社会の成立と大学への実学の導入過程
受講生による発表7・8
事前課題
・ ロジャー・ガイガー「アメリカ高等教育史」Generation 6
第9回:12月16日研究大学と大学院教育
・ 研究に基づく新たな大学像の現出―大学にとって研究・研究者養成とは何か?
・ドイツモデルの影響とジョンズ・ホプキンズ大学
・シカゴ大学の出現
・既存大学へのインパクトとユニバーシティへの変容
受講生による発表9・10
事前課題
・ロジャー・ガイガー「アメリカ高等教育史」Generation 6
第10回:12月23日 大学のシステム化:拡大と多様化―19世紀末から20世紀前半の大学
・大学の拡大と多様化・階層化の実態とその影響
・大学教育の標準化への動き―中等教育との接続、アクレディテーションの出現、財団の影響力
・ 競争と協調―協調の場としての大学団体とそれを通した差別化・階層化
受講生による発表11・12
事前課題
・ロジャー・ガイガー「アメリカ高等教育史」Generation 7
第11回:1月6日 研究大学モデルに関するケーススタディ
・研究大学の使命とは何か?
・研究大学の活性化される方策とは何か?そのための研究大学モデルをどう捉えるべきか?
・研究大学の優秀性を測る尺度となっている国際大学ランキングをどう捉えるべきか?
受講生による発表13・14
事前課題
・ Crow, M., and Dabars, W., (2015). A New Model for the American Research University, (Issues in Science and Technology), National Academy of Sciences et al.
第12回:1月20日20世紀の大学とリベラル・エデュケーション
・一般教育運動とリベラル・エデュケーションの展開
・自由選択制度と分散-集中型カリキュラム、一般教育
・多文化主義と古典的大学教育
受講生による発表15・16
事前課題
・ロジャー・ガイガー「アメリカ高等教育史」Generation 8
第13回:1月27日大衆化・民主化・統制―戦後の大学
・連邦政府による財政支援の強化と統制
・大学教育機会の拡大と大衆化
・学生運動と大学の民主化
・多文化主義・平等と大学
受講生による発表17・18
事前課題
・ロジャー・ガイガー「アメリカ高等教育史」Generation 9-10
2月上旬 期末レポート提出(予定)
<成績評価>
期末レポート(中間発表は評価対象としない) | 50% |
事前課題を含めた授業への貢献、リフレクション・シート | 50% |