授業・履修情報

2024年度シラバス

大学経営論

S1ターム

土曜3・4限 13:00~14:45 14:551640 

 

担当

              講師:両角 亜希子  

    TA:宇佐美 優里    

 

授業の目的・ねらい

  大学経営論の授業では、大学の組織、経営行動について基本的な知識を理解し、習得するとともに、その現代的な課題について各自の問題意識を発展させることを目的としています。授業を通じて知識を単に得るだけでなく、ご自身の大学経験との関係を常に意識して考えることが大切です。特に大学等に勤務されている方は、自大学との共通性はどこか、差異性がある場合はなぜなのかなどを考えるとよいと思います。今年度は、事前に教材を読んできてもらうことで、講義形式は最小限にとどめ、受講者が事前学習をしたうえで、受講者同士が議論するスタイル(ケースディスカッション)を中心に進めます。積極的に準備し、議論に楽しんで積極的に参加してください。

大学経営や大学組織に関する一般的な知識を得ることだけでなく、実際の大学経営をどのように良くしていけるのかといった実践的な関心にこたえうるものを目指しています。大学経営は実践的な関心が強い分野です。これまでの研究で蓄積されてきた理論を学習し、それを実践の場面で応用することもあれば、研究の場面においても、実践を丁寧に読み解くことにより、理論を深く理解し、さらに発展させるなど、理論と実践を往還する視点を持つことがきわめて重要であり、また有効だと考えます。理論や一般的な法則が、実際の事例に必ずしも当てはまらないこともよくありますが、それを理解し、そのうえで、個別の大学でどのようにすればよいのかを考えることが実践上は重要になります。この分野で学ぶ専業学生にとっても、大学組織特有の特徴や複雑さをよく理解していく上で貴重なステップとなるはずです。

理論と実践の両方を往還するために、経営学の分野では、ケースメソッド授業がひとつの方法論として用いられています。ケースメソッド教育に対する批判もありますが(擬体験に過ぎない等)、当コースの学生の多くは大学の職員等として様々な実践にかかわっており、それらの知識を生かすことで、より高い教育効果をあげることが期待できます。専業学生にとっては、勤務経験がないからこそ、一定のケースを提供されることで、まずはその枠の中にあてはめて、組織の理論を学び、議論に参加しやすい面もあるように感じています。大学経営論には、組織のマネジメント、人事のマネジメント、財務のマネジメントなどの様々な内容が含まれますが、今期の授業では、最も基礎的な内容である、大学の組織論を中心に扱います。組織論の比重を少なめにする年もありますが、そうすると組織論をもう少し学びたいという要望が後から出てくることが多いです。大学経営・政策について学ぶ大学院のコースは欧米でも多くありますが、最も基本的な科目の一つとして位置付けられているのが大学組織論で、大学という組織の特徴を理解するために不可欠な内容だと考えられています。

 

講義日程と内容(案)

 以下の内容を予定しています。次回以降は、いわゆるケースメソッドの授業を行います。

 

日にち

時限

内容

事前課題

1

4月13日

3限

ガイダンス・イントロ・簡単な自己紹介

なし

2

4限

大学経営をめぐる諸課題(講義)

なし

3

4月20日

3限

テキスト第2章「組織を構造的に理解する」

あり

4

4限

テキスト第3章「組織を人間関係から理解する」

あり

5

4月27日

3限

テキスト第4章「組織を政治活動から理解する」※

あり

6

 〃

4限

テキスト第5章「組織を文化の面から理解する」※

あり

7

5月4日

3限

テキスト第6章「組織と環境の関係を理解する」

あり

8

4限

テキスト第7章「組織における意思決定」※

あり

9

5月11日

3限

テキスト第8章「組織における動機づけとリーダーシップ」※

あり

10

4限

テキスト第9章「組織におけるコンフリクト」

あり

11

6月1日

3限

各自の関心についてポスター発表

あり

12

4限

 

(注)5/4はオンラインのみで行います。それ以外は一応、ハイフレックスで行いますが、できる限り対面で参加してください。5/18は五月祭、5/25は高等教育学会のため休講。6/1は対面のみ。なお、初回(4/13)の授業は録画をして後ほど共有しますが、それ以外の回はディスカッションが中心(や発表)になりますので、録画は行いません。

 

テキスト・参考文献

授業の中では、以下のテキストを用いる。(※)印のところは、中島先生のテキストのケースではなく、海外の大学の教科書(Bess&Dee2008, Manning2017を予定)に出てくるケースを私の方で翻訳して、ディスカッション設問を追加したものを使用予定。

 

テキスト

中島英博2019『大学教職員のための大学組織論入門』ナカニシヤ出版

 

参考文献

大学経営、大学組織については、以下のような書籍があります。日本語で読めるものを中心に書きましたが、大学組織論については英語で書かれたテキストの方が圧倒的に多いです。関心があるものを中心に参考にしたらよいかと思います。書籍や論文のほかに、下記の雑誌類も参考になりますので、定期的に読む習慣をつけるとよいと思います。

 

東京大学大学経営・政策コース編2018『大学経営・政策入門』東信堂

小方直幸編2020『大学マネジメント論(放送大学教材)』NHK出版

ロバート・バーンバウム1992『大学経営とリーダーシップ』玉川大学出版部

両角亜希子2020『日本の大学経営-自律的・協働的改革をめざして』東信堂

広田照幸他2013『組織としての大学―役割や機能をどうみるか』岩波書店

羽田貴史2019『大学の組織とガバナンス』東信堂

バートン・クラーク(有本章訳)1994『高等教育システム―大学組織の比較社会学』東信堂

村上雅人2021『教職協働による大学改革の軌跡』東信堂 など

Bess, J.L. and Dee, J.R. (2008) Understanding college and university organization: Theories for effective policy and practice. Sterling. VA: Stylus.

Bastedo, Michael N. (2012) The Organization of Higher Education: Managing Colleges for a New Era. Johns Hopkins Univ Pr.

Manning, Kathleen (2017) Organizational Theory in Higher Education. Routledge

Kezar, Adrianna,2018, How Colleges Change- Understanding, leading, and Enacting Change-(2nd Edition), Routledge.

 

リクルート『カレッジマネジメント』

進研アド『Between

私学経営研究会『私学経営』

大学マネジメント研究会『大学マネジメント』

IDE大学協会『現代の高等教育』

日本私立大学連盟『大学時報』

大学基準協会『大学評価研究』『大学職員論叢』

ジアース教育新社『文部科学教育通信』等

 

3回目以降のケースディスカッションの進め方

・初回の授業の中でも説明しますが、よく読んで、履修するようにしてください。

 

・進め方は、①事前にケース教材を読み、②ディスカッション設問に対する各自の考えをA4 1枚程度にまとめてくる、③授業ではまずグループ別に分かれて、予習の成果を持ち合い、ディスカッション設問に対する意見交換を行い、④そのあとクラス全体の議論を行う流れで進めます。事前課題は必ず締め切りを守って提出すること。事前課題は例外なく受講者全員で共有しますので、共有したくないことは手元のメモにとどめてください。

 

・グループ討議では司会、筆記を決めて議論を行うこと。ただし、グループ討議での議論を全体で共有する必要はないので、筆記のメモはあくまでも自分たちの議論のために行えばよいです。

 

・全体討議は、担当講師がディスカッションリーダーを務めますが、発言する場合は、挙手して、あてられたら発言するようにしてください。手を挙げていても気が付かない場合は、身振り手振りで教えてください。(オンラインのみで実施する回は、挙手機能を使ってもらうとよいと思います。)できるだけたくさんの方に発言してもらいたいので、そのあたりのバランスを見ながらあてます。

 

・ケースメソッド授業は何かを「教わる」ものではありません。講師は自説を述べることや、講義をしません。クラスの議論にきっかけを与え、議論の進行のかじ取り役です。それぞれの理解の仕方(すとんと落ちる感じ)は異なるはずです。

 

・なお、グループワーク、ケースディスカッションのグループは毎回、ランダムに決めます。様々な関心や背景を持つ他の受講生との議論を楽しみ、お互いから学んでもらえればと思います。私自身は2018年に慶應義塾大学のビジネススクールにケースメソッドを学びにいき、ケースメソッド教授法インストラクターの認定を受けました。毎年度、授業でケースメソッドを多く用いて授業を行っていますが、大学での勤務経験のない方でも、ケース教材を読むことから、議論に参加しやすいメリットもあると感じています。今回扱うのはいずれも、かなり短いケースなので、ケースに書いていないことも含めて、想像力を巡らせて、自分だったらどうするだろうか、自分の職場だったら、と考えてみてください。

 

事前学習、授業、事後学習という形でまとめると以下のようになります。

 

<事前学習:各自、授業までに>

  • その日に行う章を読んだうえで、章の最後に掲載されている「ケーススタディ」を読み、「論点」に書かれている設問すべてに対する自分の回答を用意する。
  • 授業の前日(金曜日)の朝10時までに、google classroomを通じて、教員とTAに課題(論点についてまとめた内容、氏名をお忘れなく)を提出する。1日に2コマの授業があるが、ファイルは、章ごとに分けて作成すること。分量の定めは特にないが、1ケースで、A4 1枚程度(片面でも両面でも可)を想定している。課題は全員に共有しますので、それを前提に作成すること。

 

<授業:リアルタイム>

  • 全員分の課題をTAが取りまとめたものを授業開始直前に全員に共有する。
  • 40分程度のグループ討議をしたうえで、5060分程度の全体での討議を行う。
  • オンラインのみの回は問題ないですが、それ以外は基本的に教室で受けてください。皆さんの議論が白熱してくると、一斉に挙手をして発言と発言をつないで議論が繰り広げられることがしばしばあります。そうした熱い議論を行うときに、教室とオンラインの両方に目を配るのは至難の業です。コロナ禍では致し方なくハイフレックス形式でケースディスカッションを何度かやりましたが、オンラインで参加している学生さんの存在を忘れがちになりました(この授業ではどうしても同じ質の授業をオンライン参加の方には提供できません。そのこともご理解ください)。そのため、体調等の問題がない限り、5/4以外の授業は教室で受けてもらえるとありがたいです。

 

<授業後>

  • その日のケース教材や議論から学んだこと、考えたことをA41枚程度にまとめる(いわゆるリフレクションシートなので、気軽に書いてもらえればOKです)。それ以外に、その章の内容を読んで感じたこと、よくわからなかったこともあれば書く。授業の翌日中(日曜日2359)に、google classroomを通じて、教員とTAに提出する。体調不良、仕事や家庭の事情等で遅れる場合は受け取るので、無理はしないようにしてください。
  • 皆さんのリフレクションシートの内容の紹介や質問などへの回答を講師が行う。補足説明をした方がよい内容については、参考のために簡単な解説動画を作成して皆さんに共有することもあるかもしれません。

 

 

最終発表・レポート

大学経営に関して(ご自身の研究テーマを考え、深める機会として、広めに捉えていただいてOK)、あなたが知りたい、深めたいと思うテーマについて、論文・書籍・報告書などを読んで/あるいは具体的な事例を分析して、その内容を発表してください。どのようなテーマを扱えばよいか、どのように進めたらよいかわからない場合は、個別に相談に乗るので、相談を希望する場合は、4月中にご連絡ください。修士論文や博士論文の構想や作業の一部でもよいですし、大学で学ぶ中であるいは職場で働く中で気になっていることを調べてもらってもよいです。気楽にテーマ設定してもらえればと思います。

 

ポスター発表は6/1(土)の授業で行いますので、詳細は近くになったら説明します。その内容を口頭で発表するだけでなく、言語化しておくところまでやってほしいので、最終レポートを6/3(月)の正午までにグーグルクラスルームで提出してもらいます。

 

最終レポートの分量は特に定めません(長ければよいものではないです)。自分の考えていることを口頭発表で終わらせずに、言語化しておくことはとても大切です。もやもやしていて言語化ができない状態のこともありますが、もやもやしているなりに言語化しようとしないと考えは明確にならないと考えます。私自身つくづく感じているのは、書くこと自体が思考のプロセスであるということです。書いておけば、後から自分の考えを見直すことができる利点もあります。最終レポートには、(1)内容を示す適切なタイトル、(2)どのようなことに関心があり、(3)どのような知識を学び/どのような事例を実際に検討してみて、(4)そこから何を考え、学んだのか、という観点を必ず入れてください。

 

成績評価

・課題をすべて提出した場合は、70点(良以上)は保証します。(やむを得ず欠席される場合は、担当講師までメールでお送りください。)課題をしっかりこなせば、それだけの価値があると考えて授業を設計しているためです。

・それ以上の成績を付けるかどうかについては、提出物や発表内容の質、授業中の発言での貢献、コメントシートなどを総合的に考慮したうえで決定します。

 

・毎回の授業後にリフレクションシートを提出してください。授業の感想や要望・質問などを自由に書いてもらい、次の授業までに紹介・解説する等のフィードバックを行うのでご協力ください。この授業については基本的にリフレクションシートを受講者全員で共有したいと思います。同じ授業を受けても、それぞれに学んだことや理解の仕方が異なります。大学組織の複雑さ・多様さを理解する上でも、このプロセスはとても貴重だと感じており、皆さんのご理解とご協力をお願いします。他の受講生に共有されたくないこともあると思いますが、その時はファイル名に「共有不可」と書けば共有しませんし、共有されたくない内容を教員個人にメール等で送っていただいてもよいですし、自分だけのメモとしてお手元に取っておいてもよいと思います。いずれにせよ、授業を受けて考えたこと、感じたことをその時にしっかりと言語化しておくことが大切だと考えています。

 

履修上の注意とお願い

・履修者自身による予習・復習などの課題はそれなりに多いです。十分な準備をすることで、学習効果が高まるので、それをよく理解し、準備したうえで、積極的に授業に参加してください。

 

・グループでの議論、ケースディスカッションなど、討議を通じた学びが本授業の中心になります。よりよい学習の場を作るのは、教員だけでなく、受講者自身です。そのため、以下の5つの約束を守ってください。受講者全員が約束を守ることで、信頼関係が構築され、安心して発言がしやすい環境が作られます。そして、それが高質で満足度の高い議論につながることを理解してください。皆で素晴らしい「学びの共同体」を一緒に作り上げていきたいと思いますのでご協力を宜しくお願いします。

 

・安心して発言できるためにはお互いにどのようなメンバーなのかを知ることも大切です。そのため、この授業では自己紹介シートの記入と受講生間での共有をお願いしています。私の作成例をグーグルクラスルームにあげますので、お手数をおかけしますが、初回のリフレクションシートと一緒に提出をお願いします。

 

  • 自分の考えを大勢の人に向けて発するには勇気がいりますが、ぜひ勇気をもって発言してください。また、建設的な反論も真の学習に欠かせないので、対立意見をいうのも避けないでください。
  • 履修者同士が互いに協力し、他のメンバーに対して、礼儀や敬愛の精神で接してください。それがあれば、たいていは「話してよかった」という結果になります。
  • 自分の立場や考え方とは異なるものも受け入れる姿勢・態度(寛容の精神)を持って、議論してください。
  • 授業の中では、勤務先大学について話したりすることが多くなりますが、この場で得た情報を許可なく他で漏らさないようにお願いします。
  • 議論する内容によっては、語りたくないこともあるかもしれませんが、その場合は無理に発言しなくても構いません。

 

以上