担当教員: 福留 東土(大学経営・政策コース)
開講時限: A1・A2 土曜5限(16:50~18:35)
TA:于縁(大学経営・政策コースM2)
※受講生間のコミュニケーションを密に図るため、できる限り対面で受講することを勧める。
<授業の目的>
この授業では、大学を比較と歴史の視点から考察することにより、大学に関する複眼的かつ幅広い視野を獲得することを目標とする。主にアメリカの大学を対象に講義を行うが、アメリカの大学に関する知識を習得すること自体が目的ではなく、比較史的考察を通して、各受講者が大学に関する思考を深めることを重視する。
<授業の趣旨と狙い>
大学とは本来、普遍的な知の拠点として、国や地域の枠組みにとらわれずに世界的に知的活動を展開させる性格を潜在的に有している。一方、近代社会の成立以降、大学が本質的な機能として担ってきた高等教育は各国の教育制度において人材養成・配分機能の重要な一角を担い、ゆえに、教育内容の特性、中等教育制度との関係、労働市場との関係などの点において、その構造と機能は国ごとの独自性を持っている。また、大学の活動のもうひとつの主軸である研究活動は、それ自体は普遍性を志向する活動であるが、その具体的態様は、研究資金と研究の場の提供を通じて社会における諸勢力(とりわけ政府)との関係に規定されており、その実態は国によって異なっている。すなわち、大学は本来的な性向として普遍性を追求しつつも、その教育機能をとっても研究機能をとっても、あるいは社会貢献機能をとっても、現実的には各国の政治・経済・文化等、広い意味での社会の諸条件の中でそれら機能を果たしている社会的組織である。またそこでは、それら諸条件の時代的変化の中で歴史的に形成されてきた大学の外的・内的構造が紐帯として現実の大学のあり方を大きく規定してもいる。
大学・高等教育について包括的な理解を持つ上では、普遍的・一般的な大学のあり方を各国の特殊性を捨象して捉えることが必要である。しかし、大学・高等教育は歴史的な社会変動や各国独自の社会的諸条件から独立して真空の中に存在しているわけではない。それゆえ、大学・高等教育をその実態を伴ったかたちで把握する上では、歴史的にみた大学・高等教育の変容、各国の諸条件の違いを反映した大学・高等教育の特殊性を視野に入れなければならない。さらには、そのことと関係しつつ、大学という存在の定義自体が国によって異なり、またとりわけ現代では一国の内部でも多様化しているという実態を踏まえるとき、そもそも大学をどう定義付けうるのかという問題自体、一義的な解答を与えられる問いではない。
本講義では、アメリカの大学を対象に検討を行うが、それは、アメリカの大学が戦後日本の大学改革のモデルとなり、あるいは現在世界で大学改革のモデルと位置付けられていることが直接の理由ではない。アメリカの大学システムは高度な多様性を備えており、その多様性の検討を通して、大学・高等教育のあり方を多角的に検討し、我々の持つ大学像を拡張することが主な目的となる。さらには、教育や学術、社会との連携など、多方面でこれまで様々な取組が行われてきた歴史を振り返る中で、現代の問題にも通じる、大学・高等教育の本質的な使命や課題にアプローチする視座を、本授業を通して培ってもらいたい。
<授業スケジュールとテーマ>
回 |
日付 |
テーマ |
1 |
10/5 |
ガイダンスと導入講義 |
2 |
10/12 |
比較・歴史研究の射程と方法/データにみる日米の大学 |
3 |
10/19 |
アメリカ大学の構造的特質/多様な大学:カーネギー分類の分析 |
4 |
10/26 |
テーマ別日米比較(1):学士課程教育 |
5 |
11/2 |
テーマ別日米比較(2):入学者選抜 |
6 |
11/9 |
テーマ別日米比較(3):大学院教育 |
7 |
11/23 |
アメリカ大学史(1):カレッジの時代 |
8 |
11/30 |
アメリカ大学史(2):アメリカのリベラル・エデュケーション |
9 |
12/7 |
アメリカ大学史(3):ユニバーシティへの胎動と実務的教育の展開 |
10 |
12/14 |
アメリカ大学史(4):拡大と多様化・階層化と標準化―19世紀末から20世紀前半の大学 |
11 |
12/21 |
アメリカ大学史(5):大衆化・民主化・多文化主義―戦後の大学 |
12 |
1/11 |
コロナ禍における大学の日米比較 |
13 |
1/18 |
研究大学モデルに関するケーススタディ |
*11月16日、12月28日、1月4日は休講。
<授業の進め方>
講義はできるだけ事前講義または補足講義とし、授業中は受講生の発表、およびディスカッションを重視する。講義と資料の配信にGoogle Classroomを用いる。
各回の事前課題について、担当を決め、授業で発表、ないしは相互に議論を行う。
<各回のテーマと内容>
第1回:10月5日 ガイダンスと導入講義
- 授業の趣旨と進め方、課題についてのガイダンス
- 大学教育の未来像に関する議論
事前課題
- 講演記録「大学教育の未来像」を事前に視聴してくること(詳細はClassroomに掲載)。授業では補足説明を行った上で、受講生とのディスカッションを行う。
参考資料
- 梶谷真司『考えるとはどういうことか:0歳から100歳までの哲学入門』幻冬舎、2018年。
- 鴨川明子・他編『比較教育学のライフヒストリー』東信堂、2023年。
第2回:10月12日 比較・歴史研究の射程と方法/データにみる日米の大学
- 比較・歴史研究とは何か?
- 大学・高等教育の比較研究の特質
- 国際比較の第一歩:データからみる日米比較
事前課題
- 以下のオンデマンド講義を視聴してくること(研究法を履修済みの学生は不要)URL省略
- 福留東土「比較高等教育研究の回顧と展望」『大学論集』第46集、広島大学高等教育研究開発センター、2014年9月、139-169頁。
- 福留東土「日米大学比較史考」『大学史研究通信』第72号、大学史研究会、2012年11月、8-10頁。
- 文部科学省『諸外国の教育統計』(2021年版)
https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/data/syogaikoku/1415074_00010.htm
第3回:10月19日 アメリカ大学の構造的特質/多様な大学:カーネギー分類の分析
(※ホームカミングデーのため、時間変更の可能性あり)
- アメリカの大学を特徴付けるものは何か?
- 大学の管理運営の構造とその特質
- アメリカ大学の機関類型とその多様性
事前課題
- William G. Tierney, "Globalization, International Rankings, and the American Model: A Reassessment," Higher Education Forum6, (Hiroshima: Research Institute for Higher Education, Hiroshima University, 2009), 1-17.
- カーネギー大学分類のウェブサイトを見て、また課題論文を読んで、現在のカーネギー大学分類の構造を把握してくること http://carnegieclassifications.iu.edu/
- 特定の大学を取り上げてカーネギー大学分類、および連邦教育省のCollege Navigatorで調べてくること https://nces.ed.gov/collegenavigator/
- 福留東土「米国カーネギー大学分類の分析―高等教育の多様性に関する一考察として―」『東京大学大学院教育学研究科附属学校教育高度化センター研究紀要』第2号、2017年、117-137頁。
第4回:10月26日 テーマ別日米比較(1):学士課程教育
事前課題
- 松尾知明「高等教育カリキュラムと多文化主義―スタンフォード大学の事例を中心に―」『比較教育学研究』(25)、1999年。
- 福留東土「学士課程における専攻選択プロセスの日米比較」『大学経営政策研究』(8)、2018年、19-36頁。
第5回:11月2日 テーマ別日米比較(2):入学者選抜
事前課題
- 指定された資料を事前に読み、アメリカの入学者選抜について調べ、日本との比較考察を行ってくること。
第6回:11月9日 テーマ別日米比較(3):大学院教育
事前課題
- 福留東土「大学院教育と研究者養成-日米比較の視点から-」『名古屋高等教育研究』第12号、名古屋大学高等教育研究センター、2012年3月、237-256頁。
- バートン・クラーク(有本章監訳)『大学院教育の国際比較』玉川大学出版部、2002年。
第7回:11月23日 アメリカ大学史(1):カレッジの時代
- アメリカはいかにしてヨーロッパの大学を新大陸に移入させたのか?
- 植民地カレッジの目的、教育、管理形態、植民地政府との関係
- カレッジの時代の特質とは何か?
事前課題
- ロジャー・ガイガー「アメリカ高等教育史」Generation 1-5
- 福留東土「大学の理念・制度・歴史」大学経営・政策コース編『大学経営・政策入門』東信堂、2018年、20-38頁。
第8回:11月30日 アメリカ大学史(2):アメリカのリベラル・エデュケーション
- カレッジ時代を特徴付ける古典教育の特質とは何か?
- 古典教育の意義を主張した「イェールレポート」で何が論じられたのか?
事前課題
- 立川明訳 (2001・2004). 「イェイル・レポート」第一部・第二部、国際基督教大学教育研究所。
- ロジャー・ガイガー「アメリカ高等教育史」Generation 3-5
参考論文
- A Committee of the Corporation, and the Academical Faculty (1828). Reports on the Course of Instruction in Yale College, New Haven: Printed by Hezekiah Howe.
- 立川明 (2001).「イェイル・レポートのカレッジ財政的観点からする解釈」『教育研究』43号、国際基督教大学教育研究所、13-27頁。
- 立川明 (2004).「科学と文芸:イェイル・レポートを分かつもの」『教育研究』46号、国際基督教大学教育研究所、15-31頁。
第9回:12月7日 アメリカ大学史(3):ユニバーシティへの胎動と実務的教育の展開
- 近代社会の成立と大学への実学の導入過程
- 研究に基づく新たな大学像の現出―大学にとって研究・研究者養成とは何か?
- ドイツモデルの影響とジョンズホプキンズ大学・シカゴ大学の出現
- 既存大学へのインパクトとユニバーシティへの変容
事前課題
- ロジャー・ガイガー「アメリカ高等教育史」Generation 6
第10回:12月14日 アメリカ大学史(4):拡大と多様化・階層化と標準化 ―19世紀末から20世紀前半の大学 |
(※行事のため時間変更の可能性あり)
- 大学の拡大と多様化・階層化の実態とその影響
- 大学教育の標準化への動き―中等教育との接続、アクレディテーションの出現、財団の影響力
- 競争と協調―協調の場としての大学団体とそれを通した差別化・階層化
- 一般教育運動とリベラル・エデュケーションの展開、自由選択制度と分散-集中型カリキュラム
事前課題
- ロジャー・ガイガー「アメリカ高等教育史」Generation 7-8
- 福留東土「20世紀前半におけるハーバード大学のカリキュラムの変遷―自由選択科目制から集中-配分方式へ―」『大学経営政策研究』第5号、2015年3月、49-63頁。
第11回:12月21日 アメリカ大学史(5):大衆化・民主化・多文化主義―戦後の大学
- 連邦政府による財政支援の強化と統制
- 大学教育機会の拡大と大衆化
- 学生運動と大学の民主化
- 多文化主義と古典的大学教育
事前課題
- ロジャー・ガイガー「アメリカ高等教育史」Generation 9-10
第12回:1月11日 コロナ禍における大学の日米比較
- コロナ禍におけるアメリカの大学の現状を手掛かりに、日米の大学の特質と課題を探る
事前課題
- 福留東土「コロナ禍におけるアメリカの大学」『教育社会学研究』(112)、2023年、119-144。
第13回:1月18日 研究大学モデルに関するケーススタディ
- 研究大学の使命とは何か?
- 研究大学の活性化される方策とは何か?そのための研究大学モデルをどう捉えるべきか?
- 研究大学の優秀性を測る尺度となっている国際大学ランキングをどう捉えるべきか?
事前課題
- Crow, M., and Dabars, W., (2015). A New Model for the American Research University, (Issues in Science and Technology), National Academy of Sciences et al.
- 福留東土「研究大学モデルをどう捉えるか―米国における研究動向からの示唆―」『比較教育学研究』第56号、日本比較教育学会、2018年2月、173-184頁。
参考文献
- Crow, M., and Dabars, W., (2015). Designing the New American University, Johns Hopkins University Press.
- Douglass, J. A. et al. (2016). The New Flagship University: Changing the Paradigm from Global Ranking to National Relevancy, Palgrave Macmillan.
- Crow, M., and Dabars, W., (2020). The Fifth Wave: The Evolution of American Higher Education, Johns Hopkins University Press.
<テキスト>
- ロジャー・ガイガー(福留東土・張燕訳)「アメリカ高等教育史」。
- 福留東土「大学の理念・制度・歴史」大学経営・政策コース編『大学経営・政策入門』東信堂、2018年、20-38頁。
<課題>
授業の課題は以下の4つとする。
- 事前課題:授業に先立ち、指定の課題論文を読んでくること。授業の補足講義がある場合はそれを視聴してくること。授業では、グループディスカッションなど討論形式を多く取り入れるので、必ず事前課題を行ってくること。
- 授業での発表:単位取得を希望する受講生は、学期中に一度授業内での発表を行うこと。以下の2つからいずれかを選択すること
- 事前課題に関する発表:事前課題に関する発表を授業中に行う。
- 特定のテーマや大学に関する発表:比較・歴史研究に関わって関心あるテーマや大学がある場合、それらに関する発表を行う。この場合、関連するテーマを扱う回で発表してもらうよう、調整する。
発表の分担は追って決める。
- リフレクションシートの提出:毎回の授業内容に関する、質問・コメントを書くこと。授業の翌火曜日までにClassroom上のフォームから提出すること。その日の授業を通して関心を持った点、考えたこと、質問などを自由に書くこと。重要なコメント・質問は次回授業で取り上げる。
- 期末レポート:学期末にレポートを作成すること。テーマは各受講生が自由に設定してよい。授業で発表した課題を元に書いてもよいし、授業で扱ったテーマや関連する内容について自分でテーマを立てて執筆してもよい。
執筆分量はA4用紙4枚程度とする。提出期限は2月上旬とする。正確な期限には別途連絡する。
<成績評価>
授業での発表 |
25% |
課題、ディスカッション、リフレクションを含めた授業への貢献度 |
35% |
期末レポート |
40% |
<参考文献・論文>
- Bastedo, M. N., Altbach, P. G., & Gumport, P. G. (Eds.). (2016). American Higher Education in the Twenty-first Century: Social, Political and Economic Challenges (Fourth Edition), Baltimore: The Johns Hopkins University Press.
- ロジャー・ガイガー『アメリカ高等教育史』東信堂、2023年(Geiger, R. L. (2015). History of American higher education. Princeton: Princeton University Press.)
- 東京大学大学経営・政策コース編『大学経営・政策入門』東信堂、2018年、20-38頁。
- 潮木守一『アメリカの大学』講談社学術文庫、1993年。
- 中山茂『大学とアメリカ社会―日本人の視点から』朝日選書、1994年。
- フレデリック・ルドルフ『アメリカ大学史』玉川大学出版部、2003年。
- 児玉善仁・他編『大学事典』平凡社、2018年。
- Geiger, R. L. (2019). American Higher Education since World War II: A History. Princeton: Princeton University Press.
- ロバート・バーンバウム「ガバナンスとマネジメント―アメリカの経験と日本の高等教育への示唆」広島大学高等教育研究開発センター編『大学運営の構造改革』高等教育研究叢書80、2003年、1-45頁。(Robert Birnbaum, "Governance and Management: U.S. Experiences and Implications for Japan's Higher Education.")