【担当教員】
福留東土(大学経営・政策コース)
戸村理(非常勤講師、東北大学)
【講義題目】
「大学教育カリキュラムのイノベーション」
【授業の目標、概要】
日本の大学では、学士課程を中心にカリキュラムや教育組織の改革が進行している。日本の学士課程は従来、専門教育を中心とし、各専門分野の知識に枠付けられたカリキュラムを編成してきた。しかし、近年では、特定の専門分野を前提としないカリキュラムや、複数の専門分野を融合した学際的なカリキュラム、さらには専門分野の知識を前提とするのではなく、社会課題の探究・解決を意識したカリキュラムを組む動きが広がっている。こうした動向は、日本の学士課程教育に対してどのような意味を投げ掛けているのだろうか?
本授業では、大学教育カリキュラムのイノベーションという観点から、こうした近年の動向をどのように捉えうるのかを受講生と一緒に考えたい。近年の変化の実態を把握するだけでなく、大学カリキュラムを理論的にどのように捉えるべきか、海外との比較の観点から得られる示唆は何かといった観点を取り上げる。
教育を通して、大学は学生をどう育てることができるのか、そのために必要なカリキュラムは何か。授業を通して考えを深めると同時に、受講生各自の経験を踏まえつつ、自分の関わる大学・学部の教育に何ができるか、実践的な観点からも思考を深めてほしい。
【授業のキーワード】
高等教育カリキュラム、学士課程教育、カリキュラムイノベーション、教育組織とその再編
Higher Education Curriculum, Undergraduate Education, Curriculum Innovation, Teaching Organization and its Reorganization
【授業計画】
授業計画は大きく前半と後半に分かれる。前半で大学カリキュラムに関する理論とそれを基にした実践を学び、後半で先進事例のケーススタディを行う。
<前半>
大学カリキュラムに関する理論および実践について、担当講師2名による講義と受講生間のディスカッションを行う。一部の授業回でゲスト講師を招聘する。
<後半>
前半の授業で得た知見を基に、日本国内の先進事例を5つほど選び、ケーススタディを行う。ゲスト講師を招聘して、講義とディスカッションを行う。それに先立ち、受講生は自分が関心を持つ事例を選択し、グループを組んで事前調査を行う。ゲスト講義に先立ち、各グループによる発表を行い、知見共有とゲスト講義に向けた準備を行う回を設ける。
【授業スケジュール】
4/12 福留東土 導入講義:大学カリキュラムの日米比較
4/19 戸村理 大学カリキュラムの検討①<歴史編>
4/26 戸村理 大学カリキュラムの検討②<実践編>
5/3 福留東土 学際的カリキュラムと知の協創
5/10 見崎大悟先生(工学院大学工学部) スタンフォード大学d.schoolとデザイン教育の潮流
5/17 本庄秀明氏(早稲田大学) 大学生に求められる主体性と主体性を促す授業実践
5/24 講師による補足講義(題目未定)
6/14 学生のプレゼンウィーク
6/21 アンジェラ・ユー先生(上智大学国際教養学部長)
7/5 七丈直弘先生(一橋大学ソーシャル・データサイエンス学部)
7/12 淺賀岳彦先生(新潟大学副学長・理学部)
(以降は未定)
7/19 慶應SFC関係者(未定)
7/26 (未定)
【授業の方法】
以下の3つの方法により授業を進める。
<1>講師、およびゲスト講師による講義と対話
講師およびゲスト講師による講義を行い、カリキュラム改革の現在とその課題に関する理解を深める。理論的理解を図ると同時に、日本および諸外国における取組の解説を行う。講義を受け身で聴くだけでなく、対話を重視するので、主体的に参加すること。並行して文献・論文購読を進める。
<2>グループ内のディスカッション
講義をもとに、少人数でのグループディスカッションを行う。本授業ではこのパートを特に重視するので、積極的かつ率直な意見交換を行うこと。受講生と教師、および受講生間の率直な対話を通して、大学教育に対する認識と相互理解を深める。
<3>グループ発表と期末レポートの執筆
授業で扱った内容からテーマを立て、学期末にグループでの発表を行う。その成果をもとに、各受講生は期末レポートを執筆する。
・通常授業はハイフレックス方式(オンラインと対面での受講を選択可能)で実施するが、クラス内での対話を重視するため、可能な限り対面での出席を強く推奨する。講義部分は一部オンデマンド方式を活用する。
・授業後は教室でインフォーマルな茶話会を開くので時間のある時は参加し、受講生間の親睦を深めてほしい。
・S1・S2タームは関連学会の大会が多く開催されるため、以下の日程は休講とする。また、5/24は五月祭だが授業を実施する(駒場開講を検討中)。この日の開講形態は追って通知する。
<休講日> 5/31、6/7、6/28
<ゲスト講義に向けた準備>
ゲスト講義は漫然と聞くのではなく、目的意識を持って聞くこと。そのため、以下の段取りで準備をする。
- GW明けまでに自分の関心のあるゲスト講義をひとつ選択
- 同じゲスト講義を選んだ者同士でグループを編成
- 各自、当該大学・学部のウェブサイトや資料を使って事前調査
- 授業外時間を使ってグループミーティング
- 事前プレゼンウィークでグループ発表+Q&A
- 必要に応じて、ゲスト講師に質問や重点を置いてほしい点を事前に伝える
【成績評価方法】
授業への貢献度、プレゼンテーションの内容と貢献、期末レポートによって評価する。
期末レポートは授業を通して学んだ内容をベースに各自テーマを立て、A4・3~4枚程度のレポートを作成。
提出期限は後日連絡
【教科書・参考書】
授業中に指示する。
【履修上の注意・準備学習等(予習、復習)】
この授業では多様な背景を持った学生たちが集まるものと想定される。自身と他者の背景を認識・理解するとともに、それを尊重する姿勢を持って受講すること。
導入講義
年度初めに当たって
大学院の高等教育プログラムで目指すもの
- 大学教職員、大学教育・経営人材の育成:大学の学術や教育、学生が分かる「大学人の育成」
- 教育、学生、学術、知識という大学の持つ最大の特質に向き合う学びをしてほしい・・・これらについて考察しないのであれば、研究対象は他の組織でもよいはず
- コース名である「大学経営・政策」の意味:大学の機能(教育、研究、社会貢献)を高い質によって実現するための経営であり、政策・・・経営や政策そのものが目的ではない
アメリカでの経験
- 「知性」を持って自律的に働くアメリカの「大学職員」
- 日本の職員はもっと自律的、かつアカデミックな領域に関わりながら仕事ができるのではないか
- そうすることで、学生を助け、高等教育の発展により本質的に寄与できるのではないか
大学院で学ぶ上で意識してほしいこと
- 事務仕事、ルーティンワークをこなすだけでなく、創造的に仕事をすることが重要と言われるが、それは時代の要請であるだけでなく、大学に生きる個人の豊かな生き方に関わる問題
- 自分で考え行動できる人材を育成し、彼らが大学というフィールドで豊かな生き方をすれば、周囲に良質の影響が及び、ひいては日本の大学の質を高める
- 全員が「研究者」になること・・・職業としての研究者ではなく、研究・探究のマインドと経験を持ち、方法を身に付け、自立的に研究や課題解決に取り組める人:大経コースは専門職育成プログラムでもあり、研究者育成プログラムでもある
- 意識的に自分と違う人と交わって刺激を受けること
- 自分が人と違う特性や経験を持つことで、他の人の役に立てそうと思ったら支援・協働すること・・・それによって自分も高めることができる
- 学問の自由、学習の自由