2025年S1ターム
土曜3・4限 13:00~14:45 14:55~16:40
担当
講師:両角 亜希子
TA:宇佐美 優里
授業の目的・ねらい
大学経営論の授業では、大学の組織、経営行動について基本的な知識を理解し、習得するとともに、その現代的な課題について各自の問題意識を発展させることを目的としています。授業を通じて知識を単に得るだけでなく、ご自身の大学経験との関係を常に意識して考えることが大切です。特に大学等に勤務されている方は、自大学との共通性はどこか、差異性がある場合はなぜなのかなどを考えるとよいと思います。
大学経営や大学組織に関する一般的な知識を得ることだけでなく、実際の大学経営をどのように良くしていけるのかといった実践的な関心にこたえうるものを目指しています。大学経営は実践的な関心が強い分野です。これまでの研究で蓄積されてきた理論を学習し、それを実践の場面で応用することもあれば、研究の場面においても、実践を丁寧に読み解くことにより、理論を深く理解し、さらに発展させるなど、理論と実践を往還する視点を持つことがきわめて重要であり、また有効だと考えます。理論や一般的な法則が、実際の事例に必ずしも当てはまらないこともよくありますが、それを理解し、そのうえで、個別の大学でどのようにすればよいのかを考えることが実践上は重要になります。この分野で学ぶ専業学生にとっても、大学組織特有の特徴や複雑さをよく理解していく上で貴重なステップとなるはずです。
今年度は大学財務の観点を中心に扱います。現在、大学の財務状況は日本に限らず厳しい局面を迎えていますが、そうした状況についてもまずは正確に理解をできることが重要だと考えます。言うまでもないことですが、よい教育研究を行う上では、それを支える財務が不可欠です。大学の財務諸表を見たことがない、大学会計はわからないなど、苦手意識をお持ちの方も多いと想像していますが、大学経営を学ぶ上で、大学財務を理解することがとても重要欠です。また、大学財務と聞いて、数字を思い浮かべる方も多いと思いますが、大学の財務は数字をめぐる世界だけではなく、大学をめぐる制度や政策、大学の組織文化などと不可分に結びついています。財務課で働く方だけが大学財務を理解していればよいわけではありません。経営者も、教務課で働く方も、教員も、学生も、高等教育政策にかかわる方も、まったく同じではありませんが、大学の財務をめぐる基礎的な理解ができることは不可欠だと考えます。この授業ではその基礎を作り、同時に大学財務に対する苦手意識を和らげるとっかかりを作っていきたいと考えています。
財務の問題に加えて、大学組織論も少し扱います。大学組織論はケースメソッドで学びます。理論と実践の両方を往還するために、経営学の分野では、ケースメソッド授業がひとつの方法論として用いられています。ケースメソッド教育に対する批判もありますが(擬体験に過ぎない等)、当コースの学生の多くは大学の職員等として様々な実践にかかわっており、それらの知識を生かすことで、より高い教育効果をあげることが期待できます。専業学生にとっては、勤務経験がないからこそ、一定のケースを提供されることで、まずはその枠の中にあてはめて、組織の理論を学び、議論に参加しやすい面もあるように感じています。大学経営論には、組織のマネジメント、人事のマネジメント、財務のマネジメントなどの様々な内容が含まれますが、今期の授業では、最も基礎的な内容である、大学の組織論を中心に扱います。組織論の比重を少なめにする年もありますが、そうすると組織論をもう少し学びたいという要望が後から出てくることが多いです。大学経営・政策について学ぶ大学院のコースは欧米でも多くありますが、最も基本的な科目の一つとして位置付けられているのが大学組織論で、大学という組織の特徴を理解するために不可欠な内容だと考えられています。
今年度も、受講者が事前学習をしたうえで、講師と受講者、あるいは受講者同士が議論するスタイルを中心に進めます。ちょっと大変だと思いますが、がんばって準備をして、議論には、楽しんで積極的に参加してください。
講義日程と内容
以下の内容を予定しています。
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3限(13:00~14:45) |
4限(14:55~16:40) |
4月12日 |
ガイダンス・自己紹介 |
講義 |
4月19日 (対面推奨) |
ゲスト講師 植草茂樹先生(公認会計士) 大学の財務に関する講義 |
※事前課題あり 4事例の財務諸表を見てきてわかったこと、わからないことを議論 植草先生も質疑に参加いただく |
4月26日 (対面推奨) |
※事前課題あり 組織論(中島第10章:組織学習)の ケースディスカッション |
※事前調べ学習推奨 ゲスト講師 磯田文雄先生(花園大学 学長) |
5月3日 (対面のみ) |
※事前課題あり 各自が調べた事例(大学財務)のポスター発表 ゲスト修了生 福山敦さん(兵庫大学 大学事務次長) |
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5月10日 (対面推奨) |
※事前課題あり 組織論(中島第11章:ガバナンス) のケースディスカッション |
※事前調べ学習推奨 ゲスト講師 村田治先生(関西学院大学 元学長) |
5月17日 (対面推奨) |
※事前課題あり 「イースタン州立大学の財政問題」 のケースディスカッション |
特別講義(コース修了生も聴講可) シン・ジョンチョル先生(ソウル大学教授、東 京大学外国人客員教授)18:00~懇親会 |
・5/24(五月祭)、5/31(高等教育学会)は休講
・シン先生の特別講義のタイトルは「Academic Silo and Interdisciplinarity in Higher Education」です。アカデミックサイロ(縦割り問題・タコつぼ化問題)は長年、大学が抱えている課題(挑戦)で大学組織論の中心的テーマでもあり、議論を深めたいと思います。履修者全員が自由に議論いただくことを考え、資料は英語、発表は韓国語で行います。博士修了生で香川大学特命准教授の塚田亜弥子さんが通訳してくれます。
・講義パートは録画して欠席・復習の場合に見てもらえるようにしますが、ケースディスカッションおよびポスター発表の回については録画しません。
事前課題一覧
クラスルームでも案内しますが、各授業日の前に下記の事前課題を提出してください。A4で1枚程度ですので、必ず行ってきてください。
なお、この授業では事前課題も履修者全員で共有します。
②④⑤に必要な資料はクラスルームで共有します。
③の課題のために必要な情報は、各自でウェブサイト等から入手してください。
最終課題
大学の財務に関連して、この授業で学んで/この授業をきっかけに、わかったこと、自分で調べてみたこと、考えたことを書く(※)。
分量の目安はA4(片面)で4枚以内。締め切りは、5/31まで、グーグルクラスにて提出してください(①PDFファイルで、②内容を示すタイトルを必ずつける、③名前の記載を忘れずに)
最終レポートも受講者間で共有します。
(※)たとえば、以下のような内容を想定。
5/3に発表した分析の文章化。あるいは授業をきっかけに調べた内容をまとめて、それに対する自分の考えを書く。
最終レポートの分量は、A4 4枚以内を目安としていますが、増えても構いません(長ければよいものではないです)。自分の考えていることを口頭発表で終わらせずに、言語化しておくことはとても大切です。もやもやしていて言語化ができない状態のこともありますが、もやもやしているなりに言語化しようとしないと考えは明確にならないと考えます。私自身つくづく感じているのは、書くこと自体が思考のプロセスであるということです。書いておけば、後から自分の考えを見直すことができる利点もあります。最終レポートには、(1)内容を示す適切なタイトル、(2)どのようなことに関心があり、(3)どのような知識を学び/どのような事例を実際に検討してみて、(4)そこから何を考え、学んだのか、という観点を必ず入れてください。
テキスト・参考文献
大学組織論を扱う授業の中では、以下のテキストを用いる。今回は中島先生のテキストの第10章、第11章と、海外の大学の教科書(Bess&Dee2008を予定)に出てくるケースを私の方で翻訳して、ディスカッション設問を追加したものを使用予定。
テキスト
中島英博2019『大学教職員のための大学組織論入門』ナカニシヤ出版
Bess, J.L. and Dee, J.R. (2008) Understanding college and university organization: Theories for effective policy and practice. Sterling. VA: Stylus.
参考文献
大学の財務に関して、読んだほうが良い論文や書籍、あるいは授業にかかわるものは適宜、クラスルームで紹介します。
大学経営、大学組織については、以下のような書籍があります。日本語で読めるものを中心に書きましたが、大学組織論については英語で書かれたテキストの方が圧倒的に多いです。関心があるものを中心に参考にしたらよいかと思います。書籍や論文のほかに、下記の雑誌類も参考になりますので、定期的に読む習慣をつけるとよいと思います。
東京大学大学経営・政策コース編2018『大学経営・政策入門』東信堂
小方直幸編2020『大学マネジメント論(放送大学教材)』NHK出版
ロバート・バーンバウム1992『大学経営とリーダーシップ』玉川大学出版部
両角亜希子2020『日本の大学経営-自律的・協働的改革をめざして』東信堂
広田照幸他2013『組織としての大学―役割や機能をどうみるか』岩波書店
羽田貴史2019『大学の組織とガバナンス』東信堂
バートン・クラーク(有本章訳)1994『高等教育システム―大学組織の比較社会学』東信堂
村上雅人2021『教職協働による大学改革の軌跡』東信堂 など
Bastedo, Michael N. (2012) The Organization of Higher Education: Managing Colleges for a New Era. Johns Hopkins Univ Pr.
Manning, Kathleen (2024) Organizational Theory in Higher Education. Routledge
Kezar, Adrianna,2018, How Colleges Change- Understanding, leading, and Enacting Change-(2nd Edition), Routledge.
リクルート『カレッジマネジメント』
進研アド『Between』
私学経営研究会『私学経営』
大学マネジメント研究会『大学マネジメント』
IDE大学協会『現代の高等教育』
日本私立大学連盟『大学時報』
大学基準協会『大学評価研究』『大学職員論叢』
ジアース教育新社『文部科学教育通信』等
大学組織論をテーマとしたケースディスカッションの進め方
・初回の授業の中でも説明しますが、よく読んで、履修するようにしてください。
・進め方は、①事前にケース教材を読み、②ディスカッション設問に対する各自の考えをA4 1枚程度にまとめてくる、③授業ではまずグループ別に分かれて、予習の成果を持ち合い、ディスカッション設問に対する意見交換を行い、④そのあとクラス全体の議論を行う流れで進めます。事前課題は必ず締め切りを守って提出すること。事前課題は例外なく受講者全員で共有しますので、共有したくないことは手元のメモにとどめてください。
・グループ討議では司会、筆記を決めて議論を行うこと。ただし、グループ討議での議論を全体で共有する必要はないので、筆記のメモはあくまでも自分たちの議論のために行えばよいです。
・全体討議は、担当講師がディスカッションリーダーを務めますが、発言する場合は、挙手して、あてられたら発言するようにしてください。手を挙げていても気が付かない場合は、身振り手振りで教えてください。(オンラインのみで実施する回は、挙手機能を使ってもらうとよいと思います。)できるだけたくさんの方に発言してもらいたいので、そのあたりのバランスを見ながらあてます。
・ケースメソッド授業は何かを「教わる」ものではありません。講師は自説を述べることや、講義をしません。クラスの議論にきっかけを与え、議論の進行のかじ取り役です。それぞれの理解の仕方(すとんと落ちる感じ)は異なるはずです。
・なお、グループワーク、ケースディスカッションのグループは毎回、ランダムに決めます。様々な関心や背景を持つ他の受講生との議論を楽しみ、お互いから学んでもらえればと思います。私自身は2018年に慶應義塾大学のビジネススクールにケースメソッドを学びにいき、ケースメソッド教授法インストラクターの認定を受けました。毎年度、授業でケースメソッドを多く用いて授業を行っていますが、大学での勤務経験のない方でも、ケース教材を読むことから、議論に参加しやすいメリットもあると感じています。今回扱うのはいずれも、かなり短いケースなので、ケースに書いていないことも含めて、想像力を巡らせて、自分だったらどうするだろうか、自分の職場だったら、と考えてみてください。
事前学習、授業、事後学習という形でまとめると以下のようになります。
<事前学習:各自、授業までに>
- その日に行う章を読んだうえで、章の最後に掲載されている「ケーススタディ」を読み、「論点」に書かれている設問すべてに対する自分の回答を用意する。
- 授業の前日(金曜日)の朝10時までに、google classroomを通じて、教員とTAに課題(論点についてまとめた内容、氏名をお忘れなく)を提出する。1日に2コマの授業があるが、ファイルは、章ごとに分けて作成すること。分量の定めは特にないが、1ケースで、A4 1枚程度(片面でも両面でも可)を想定している。課題は全員に共有しますので、それを前提に作成すること。
<授業:リアルタイム>
- 全員分の課題をTAが取りまとめたものを授業開始直前に全員に共有する。
- 40分程度のグループ討議をしたうえで、50-60分程度の全体での討議を行う。
- オンラインのみの回は問題ないですが、それ以外は基本的に教室で受けてください。皆さんの議論が白熱してくると、一斉に挙手をして発言と発言をつないで議論が繰り広げられることがしばしばあります。そうした熱い議論を行うときに、教室とオンラインの両方に目を配るのは至難の業です。コロナ禍では致し方なくハイフレックス形式でケースディスカッションを何度かやりましたが、オンラインで参加している学生さんの存在を忘れがちになりました(この授業ではどうしても同じ質の授業をオンライン参加の方には提供できません。そのこともご理解ください)。そのため、体調等の問題がない限り、教室で受けてもらえるとありがたいです。
<授業後>
- その日のケース教材や議論から学んだこと、考えたことをA4で1枚程度にまとめる(いわゆるリフレクションシートなので、気軽に書いてもらえればOKです)。それ以外に、その章の内容を読んで感じたこと、よくわからなかったこともあれば書く。授業の翌日中(日曜日23:59)に、google classroomを通じて、教員とTAに提出する。体調不良、仕事や家庭の事情等で遅れる場合は受け取るので、無理はしないようにしてください。
- 皆さんのリフレクションシートの内容の紹介や質問などへの回答を講師が行う。補足説明をした方がよい内容については、参考のために簡単な解説動画を作成して皆さんに共有することもあるかもしれません。
成績評価
・課題をすべて提出した場合は、70点(良以上)は保証します。(やむを得ず欠席される場合は、担当講師までメールでお送りください。)課題をしっかりこなせば、それだけの価値があると考えて授業を設計しているためです。ポスター発表の回を欠席する方は、自分の発表をビデオに撮って、それをクラスルームにアップしてください。
・それ以上の成績を付けるかどうかについては、提出物や発表内容の質、授業中の発言での貢献、コメントシートなどを総合的に考慮したうえで決定します。
・毎回の授業後にリフレクションシートを提出してください。授業の感想や要望・質問などを自由に書いてもらい、次の授業までに紹介・解説する等のフィードバックを行うのでご協力ください。この授業については基本的にリフレクションシートを受講者全員で共有したいと思います。同じ授業を受けても、それぞれに学んだことや理解の仕方が異なります。大学組織の複雑さ・多様さを理解する上でも、このプロセスはとても貴重だと感じていますし、様々なご経験や背景を持つ履修者の方同士が学びあえる良い方法だと考えており、皆さんのご理解とご協力をお願いします。他の受講生に共有されたくないこともあると思いますが、その時はファイル名に「共有不可」と書けば共有しませんし、共有されたくない内容を教員個人にメール等で送っていただいてもよいですし、自分だけのメモとしてお手元に取っておいてもよいと思います。いずれにせよ、授業を受けて考えたこと、感じたことをその時にしっかりと言語化しておくことが大切だと考えています。
履修上の注意とお願い
・履修者自身による予習・復習などの課題はそれなりに多いです。十分な準備をすることで、学習効果が高まるので、それをよく理解し、準備したうえで、積極的に授業に参加してください。
・グループでの議論、ケースディスカッションなど、討議を通じた学びが本授業の中心になります。よりよい学習の場を作るのは、教員だけでなく、受講者自身です。そのため、以下の5つの約束を守ってください。受講者全員が約束を守ることで、信頼関係が構築され、安心して発言がしやすい環境が作られます。そして、それが高質で満足度の高い議論につながることを理解してください。皆で素晴らしい「学びの共同体」を一緒に作り上げていきたいと思いますのでご協力を宜しくお願いします。
・安心して発言できるためにはお互いにどのようなメンバーなのかを知ることも大切です。そのため、この授業では自己紹介シートの記入と受講生間での共有をお願いしています。私の作成例をグーグルクラスルームにあげますので、お手数をおかけしますが、初回のリフレクションシートと一緒に提出をお願いします。思わぬ共通点を知って、親しくなることもありますし、授業の中でも、早くお互いの名前と顔を覚えることで、「〇〇さんはどうですか」など、名前を呼んで、いい雰囲気で議論できるようにしたいと思います。
- 自分の考えを大勢の人に向けて発するには勇気がいりますが、ぜひ勇気をもって発言してください。また、建設的な反論も真の学習に欠かせないので、対立意見をいうのも避けないでください。
- 履修者同士が互いに協力し、他のメンバーに対して、礼儀や敬愛の精神で接してください。それがあれば、たいていは「話してよかった」という結果になります。
- 自分の立場や考え方とは異なるものも受け入れる姿勢・態度(寛容の精神)を持って、議論してください。
- 授業の中では、勤務先大学について話したりすることが多くなりますが、この場で得た情報を許可なく他で漏らさないようにお願いします。
- 議論する内容によっては、語りたくないこともあるかもしれませんが、その場合は無理に発言しなくても構いません。