スタッフ紹介

阿曽沼教授

インタビュー

この分野に関わるようになった経緯を教えてください

もともと学部生の時は理学部で、主に宇宙物理学を学びましたが、卒業のころには科学と社会との関係に関心を持つようになりました。科学は社会にどのような影響を及ぼしているのか、逆に科学は社会からどのような影響を受けているのか、そして科学は社会でどのように成り立っているのか、その社会的な基盤を探りたいと思いました。科学史、科学社会学、科学哲学等を勉強して、それが今でも私の問題意識や見方のベースになっています。

阿曽沼明裕教授

その後広島大学の大学教育研究センター(現在の高等教育研究開発センター)で、そこは日本の大学論、高等教育研究のメッカですが、その大学院で大学論・高等教育論を学ぶ機会を得て、大学の学問研究と社会との関係について取り組み始めました。大学院では経済や財政について学ぶ機会があり、経済や財政という要因に着目して大学の学問研究と社会との相互関係を考察するようになりました。研究費を取り上げることが多かったですが、大学の研究体制や学術政策を研究の対象とするようになり、高等教育財政や高等教育政策へと関心を広げました。

どのような研究を行っているのですか?

そうした経緯があるため、私にとって大学の組織や財務、経営、おおきくは制度や政策といったものは、先にも述べたように、大学における個々の教育活動や研究活動と社会との間にあって、それらを媒介するものという位置づけにあります。社会的な要求と学問や専門分野固有の要求とがぶつかって、調整される場です。そして、大学・高等教育の制度や政策の在り方は、大学の教育研究の社会的な位置づけを反映すると同時に、その在り方が大学の教育研究を方向付け、そしてそれがまた大学の教育研究の社会的な役割に影響し、社会的な位置づけを変化させる、というようなダイナミズムを念頭に置いています。そういう観点から、大学の組織や財務、制度や政策を対象に研究をしています。

例えば、戦後日本の学術助成政策の構造とその変化を、学問の固有性からくる自主性原理と、社会的な要求からくる効率性原理との葛藤という観点から描いたり、附置研究所や研究センター類の発展を学部など基本組織と社会とのバッファーという観点から解釈したり、戦後の国立大学財政の構造変化を社会との関わりで位置付けたり、また、米国の研究大学の大学院について、学問の論理に傾斜した研究者養成と社会の要請に傾斜した専門職養成という異なる機能がいかに調整され維持されているのかという観点から、その組織的・経済的基盤の構造を明らかにするというような作業をしてきました。

学生に学んでほしいことは何ですか?

モノサシの自覚的な習得です。大仰に言えばフレームワークや枠組み、平たく言えば観点、視点、モノの見方、といっても良いでしょう。何かを見て、捉えて理解し、解釈するためのモノサシです。人が何かを見るということは、必ず何らかのモノサシや枠組みが前提となっており、それがなければ何も見ていないのと同じです。問題意識があるというのも、モノサシがあるということです。同じものを見るにしてもモノサシが違えば見えてくるものも変わります。新しい発見というのも、単に違ったモノサシで見ることによって新しく位置づけられたに過ぎない場合も多々あります。ただ、そのモノサシは偏見や先入観であることも多く、それを修正していくことも大事です。よく複眼的思考が大事だという場合、それは複数のモノサシを持つことだと思っています。そして、何より大事なのは自分のモノサシを疑って、常に顧みることです。自分が見たり考えたり発言したりするときに、それは必ず一定の見方やモノサシを前提にしていることを自覚する必要があります。あらゆることから独立した自由な解釈や発言などないと思います。こうした態度が創造性と寛容を生むのだと思いますし、社会で活動していくことの基礎になると思います。そして多様な専門分野(ディシプリン)で構成され、多様性を特徴とする大学に来ることは、自分が今持っているモノサシと違うモノサシに出会うことですし、自分のモノサシを相対化する機会になります。相対化は知的に自立できることにつながります。それを大学で学んでほしいと思います。