これまでの研究テーマや内容について教えてください
高校生等の進路選択や教育格差に関する研究、高等教育政策の影響に関する研究など、大学を中心とするさまざまな実証研究に打ち込んできました。東日本大震災の被災地出身の若者のライフコース形成にも関心を持っています。
最近では、大学教授職研究の一環として、実務家教員に関する研究も行っています。近年、実務家教員の登用を促す向きがあります。専門職としての大学教授職の変容可能性を見定める橋頭保を築けるのではないかという思いで、研究に取り組んでいます。
これまで機会に恵まれて、いろいろな研究に挑戦してきました。研究テーマに一貫性が無いという見方もあるかもしれませんが、振り返ってみると、それらの研究の根底にあるのは、「大学は誰のためにあるのか」という問いなのかもしれません。
この問いに答えるための視点は、さまざまかと思います。例えば、何歳になっても、大学で学んで良いはずです。いったん仕事をして、必要が生じたら大学で学ぶ。そうしたあり方があっても良いはずです。しかし現実には、必ずしもそうなっていません。
当コースの受講生は、大学職員をはじめ定職をお持ちの方々が多くを占めます。働きながら学び、学びながら働く。そんな新しい教育や大学のあり方を、みなさんと一緒に作り上げていきたいですね。
学生時代の思い出や、印象深い出来事などはありますか?
特に大きかったのが、東京大学大学院教育学研究科に在籍中、社会工学・教育経済学を専門とする矢野 眞和教授(当時)に出会ったことです。正式な形でご指導いただいたのは修士課程の間だけでしたが、その後も先生の謦咳に接する機会に恵まれました。データをして語らしめること、数字と言葉の組み立て工学は、私の研究目標であり続けています。また、先生のオフィスアワーが、「在室中はいつでも」となっていたことが印象に残っています。
博士課程でご指導いただいたのは、社会科学研究所・佐藤香教授(当時)です。ゼミでは、ほとんど毎回発表していたような気がします。当時の私は元気だけはあったのですが、それまで書きためてきたものを放棄して博士論文のテーマを変更するなど、回り道をしました。それでも先生は温かくご指導くださいました。そのご指導によって行き着いたのが、「女性の高学歴化」をテーマにした博士論文 でした。先行して研究されていた男性に比べ、女性の場合は、進路や人生の選択において複雑さが横たわっていることがあります。そこに焦点を当て、女性の高学歴化という現象を分析したのです。
時は経ち、今度は日下田先生が指導する立場になりました
本コースでは、「高等教育調査の方法と解析(2)」という授業科目を担当します。
私は、学部生の頃、統計に苦手意識を持っていました。ところが、やってみたら意外と何とかなるもので、「知りたいことがわかる」という魅力を感じるようになっていきました。しかし統計は難しいという感覚を今でも持っています。
授業では自身の経験を踏まえ、数字への苦手意識を払拭できるような教材作りや授業を意識するとともに、言葉も重視したいところです。研究テーマを考えるにせよ、統計分析の結果を伝えるにせよ、言葉が必要です。そこに力点を置きながらみなさんをサポートできればと思っています。
最後に、今後の研究テーマについて教えてください
柱の1つに掲げているのが、教育の効果です。
教育にはさまざまな効果が期待されますが、教育効果が表れるメカニズムを説明するのに役立ちうるのが、「時間選好」と呼ばれる概念です。現在よりも将来を重視するのか、将来よりも現在を重視するのか。その志向や傾向を表す指標のことです。
教育が、その人自身の時間選好にどう働きかけているのか。それを実証的に明らかにすることができれば、教育によるさまざまな効果を間接的にでも示すことができるだろうと考えています。
こうした研究に少し手をつけていますが、徐々に本格化させていきたいと考えています。